少し前まで、食物繊維といえば、人間や犬ではその体内で消化できないために栄養学的には全く役に立たない、食べ物の「カス」として扱われておりました。
特に犬の場合、元々が肉食動物であるため、人に比べても消化器官が発達しておらず、腸の長さも短いことから食物繊維は特に苦手です。
肉食である犬は、食物繊維を自然に摂ることもなく、生きていくうえで必要ないものとされてきました。
そのため、今でも犬に野菜や果物、穀類を与えること自体がダメだという人も未だに多くいます。
ただ、最近になって、その食物繊維が見直されるようになり、その地位が急激にアップしています。今や、第六の栄養素とまで言われるようになってきました。
それは、食物繊維自体の栄養価というよりも、食物繊維を摂ることによって色々な病気予防ができる点に注目が集まっているからです。
このブログでも、過去に腸内環境改善のために食物繊維は効果的という話題を何度かしておりますが、キチンとまとめて記事にしたことが無かったので、今回はこのテーマで書いてみたいと思います。
そもそも食物繊維とは何なのか?
食物繊維の歴史は古代ギリシャまでさかのぼります。
当時から、小麦ふすま(小麦粒の表皮部分)は便秘の予防によいことは知られていたのですが、食物繊維は栄養がない、食べ物のカスと考えられていました。
食べ物のカスといっても、かなり曖昧なのですが、実際に食物繊維とはどのように定義されているのでしょうか?
少し調べてみると、驚いたことにその定義が今でもあいまいなようです。世界の研究者の間で共通認識はまだないみたいです。それは、食物繊維の成分構成とその作用がとても複雑であることから来ています。
一応、日本では食物繊維は、「ヒトの消化酵素で消化されない食物中の難消化性成分の総体」と認識されているようです。
《参考》 食物繊維の定義と分類
資料によれば、食物繊維は植物由来のものだけでなく、動物起源のもの、人工合成物も含まれます。
いずれにしろ、ヒトの消化酵素で分解されないものという定義です。
また、たくさんある食物繊維をその機能別に分けて話をする場合、よく使われるのが、水に溶ける「水溶性食物繊維」と、溶けない「不溶性食物繊維」という分類です。
- 水溶性食物繊維
水にとける食物繊維。野菜や果物、海藻類、きのこ類に多く含まれます。成分によって、「ヌルヌル」と「サラサラ」の系統がありますが、比較的、粘度が高い成分です。 - 不溶性食物繊維
水にとけない食物繊維。野菜や穀類、豆類に多く含まれています。セルロース、ヘミセルロースといった成分で、野菜などに多く含まれる筋の部分です。食感は「ザラザラ」、「モサモサ」しています。普通に食物繊維といえば、こちらを想像します。
水溶性食物繊維を多く含む食品
昆布、わかめ、などの海藻類に含まれるネバネバ成分(アルギン酸)。かんきつ類、リンゴなどに含まれるペクチンなどがあります。
ペクチンは食品添加物として加工食品(ジャムやゼリー、アイスクリームなど)にもよく使われています。
他にも、こんにゃく、里いもなどにも含まれています。
不溶性食物繊維を多く含む食品
野菜や果物、穀類、イモ類、豆類の他にも、きのこ類にも含まれています。
野菜や果物を普通に食べていれば、摂取できる成分です。通常、食物繊維は不溶性の物が多く、意識していないと、水溶性のものが取れないぐらいです。
食物繊維を水溶性と不溶性に分けた場合、理想的な摂取比率は1:2とよく言われており、バランスよく食物繊維を摂ることも大切です。
ただ、普通に食物繊維を摂っていると、どうしても不溶性が多くなりがちです。
その証拠に、日本人の統計データを見るとわかるのですが、水溶性と不溶性の比率が1:3となっています。このデータからも、水溶性の食物繊維が足りていないことが分かります。
なぜ、最近になって注目され出したのか
古代ギリシャの頃から、野菜や穀類などの食物繊維を多く摂ることで、腸内が整えられ、下痢や便秘の予防になることは知られていました。
ただ、最近の腸内細菌の研究によって、腸内環境を整えることによって、下痢や便秘の改善だけでなく、体の免疫力をアップさせ、色々な病気予防にも効果があることが分かってきたのです。
《参考記事》 腸内フローラのバランスをとってアトピー、アレルギーを改善する
腸内の細菌の働き(プロバイオティクス)を助けることで、「プレバイオティクス」とも言われています。
このように、健康にとって大切な役割を担っている腸内環境を整えるために、食物繊維が鍵となるのです。
それは、腸内環境を整えるために重要である善玉菌のエサとなるのが、食物繊維だからです。
また、食物繊維はコレステロールや余分栄養の吸収を穏やかにすることで、肥満、糖尿病などの生活習慣病予防に役立つのです。
食物繊維と大腸がんの関係
少し前まで、食物繊維を多く摂取した方が大腸がんの罹患率が下がるのではという推測の元、世界中で色々な調査が行われました。
その結果、調査によって二転三転したのですが、現在の見解では、食物繊維を多く摂ったからといって大腸がんを予防する効果はほとんどないらしいです。
ただし、国立がん研究所の発表によると、極端に食物繊維の摂取量が少ないと、がんの罹患リスクが高くなるようです。(日本人の食物繊維摂取量はかなり少なくなっているので、問題となっています)
食物繊維のその効用とは
それでは、食物繊維の効果について順番に説明していきましょう。
腸内環境を整える
水溶性食物繊維の多くは、大腸内で乳酸菌やビフィズス菌などの「善玉菌」の栄養源となり、発酵されます。
この発酵によって、短鎖(たんさ)脂肪酸(主に、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸)という脂肪酸が作られるのですが、これが腸内環境を良くするために役立っているのです。
この短鎖脂肪酸は、大腸から吸収されてエネルギーや代謝に利用されるのですが、その他にも腸内を弱酸性にしてくれます。
この弱酸性というのが重要で、これによって悪玉菌の活性が抑えられ、発がん性物質や有害物質が出来にくくなり、腸内環境が良い状態に保たれるのです。
また、腸内を弱酸性にすることでミネラルがイオン化され、体内に吸収されやすくもなります。ただし、不溶性食物繊維を摂りすぎると、逆にミネラルの吸収を阻害する原因ともなります。
便通を改善して下痢・便秘を予防する
主に不溶性食物繊維が関連します。
不溶性食物繊維も発酵されるのですが、一般的にはウンチの量を増やす効果の方が大きいと言われています。
ウンチの量を増やすことで、ぜん動運動を活発化させたり、水を吸収して膨らむことでウンチを柔らかくするので、便秘の予防・改善にとても効果があります。
また、お通じが良くなることで、腸内の有害物質が早く排出されるとともに、発ガン性物質などの有害物質を吸着して排出する効果もあります。
コレステロールの吸収を抑える
食物繊維は、小腸において、他の栄養素の消化・吸収を妨げる作用があります。
特にコレステロールの吸収を抑えることで、生活習慣病予防となります。
食物繊維は腸内において、コレステロールを吸着して体外に排出することで腸から吸収されるコレステロールを抑えてくれるのです。
また、コレステロールは肝臓で胆汁酸という脂肪を消化するための物質を作るときに利用されるのですが、この胆汁も食物繊維が吸着するため、無くなった胆汁を補うためにどんどんコレステロールが消費され、血液中のコレステロールロール値が下がる効果もあるのです。
特に、昨今では犬の寿命が劇的に延びたことにより、愛犬が高齢になってからの生活習慣病がとても増えています。
この生活習慣病のリスクは、日頃からコレステロール値を下げることでグッと下げることができるのです。
食べ過ぎによる肥満を防止する
満腹感が得られる
元々、食物繊維には栄養素としての効果はほとんどないです。そのため、食べ過ぎてカロリーオーバーになることはないです。
また、食物繊維は消化しづらく、消化管内で膨らみカサが増えるため、満腹感が得られます。
そのため、ダイエット中のワンちゃんに高繊維タイプのドッグフードが使われたりもします。
血糖値の急激な上昇を抑える
水溶性食物繊維は粘度が高いため、食べ物が胃から小腸へ移動する速度を遅らせる効果があります。そのため、糖の吸収も穏やかになり、食後の急激な血糖値の上昇を抑えることができます。
通常、血糖値が上昇すると、インスリンというホルモンが分泌され、全身の臓器細胞にぶどう糖を取り込ませたり、脂肪として蓄えさせたりします。
ただ、急激に血糖値が上がり、インスリンが過剰に分泌され過ぎると、食欲増進を促し、ますます食べ過ぎるという悪循環に陥ります。
血糖値の急激な上昇を抑えることで、インスリンが穏やかに作用し、肥満防止となるのです。
その他にも、最近の研究では食物繊維に別のダイエット効果もあることが分かっています。
それは腸内の善玉菌の効果です。
腸内の善玉菌は食物繊維をエサとして、それを発酵させることで短鎖脂肪酸を作るのですが、その短鎖脂肪酸からは、さらにぶどう糖が作られるのです。
食物繊維は腸内で消化(発酵)されるのに時間がかかるため、食後に時間が経っても腸内でぶどう糖がゆっくりと作られ続けることになります。
そのため、長時間、腸内のぶどう糖濃度が保たれることになり、食後の急激な血糖値の上昇や低下をさけることができるのです。
食物繊維は犬にとっても必要なのか
残念ながら、犬の場合も、人と同じように食物繊維が腸内環境の改善に有効であるという、大規模な研究結果はありませんでした。
ただ、少なくとも、犬の場合でも肉を多くとることで、腸内での悪玉菌が活発になり、その有害物質が身体に悪影響を与えることは同じです。
特に、犬では肉食中心の食事が必要ということもあり、腸内環境が悪化しやすい傾向があります。
いつも下痢気味である、慢性的な便秘をしているワンちゃんは要注意です。
犬は私たちと同じ雑食性の動物です。そのため、腸内環境に対する食物繊維の効果もほぼ同じであり、犬にとっても、食物繊維は重要な栄養素となるのです。
特に、犬の高齢化によって、生活習慣病や肥満が問題になっている今、食物繊維を摂ることでそれを改善できる可能性があるのです。
その証拠に、最近のドッグフードの中には、肥満防止のために高繊維質タイプのものも増えてきております。
ただ、人と犬では主要な腸内細菌の種類が違うらしいですのですが、食物繊維の効果が大きく変わることはなく、プロバイオティクスの有効性は犬においても期待されています。
《参考 日清ペットフード》 イヌにおける加齢に伴う腸内細菌叢の変化を確認
確かに、自然界では犬たちが食物繊維を摂ることはほとんどないのですが、だからといって効果がないわけではありません。
犬にとっても、食物繊維はとても重要な食べ物であることに変わりはないのです。
まとめ
今回は、食物繊維について少し突っ込んで調べてみました。
調べてみると、食物繊維の研究成果などは人に対するものがほとんどで、犬などの他の動物での大規模な実証実験というものは見つけることはできませんでした。
ただ、最近では日清ペットフードさんのように、ペット業界でもプロバイオティクス、プレバイオティクスは大注目されており、ドッグフードを始め、色々な商品が開発されてきております。
また、犬が食物繊維を摂るということは、それほど大そうなことでもなく、おやつにリンゴをあげる程度のお気軽さです。
みなさんも、愛犬の腸内管理のために食物繊維を摂ることを少し意識してみてはどうでしょうか。
特に、便秘気味なワンちゃんの場合には、気を付けてあげてください。
便秘解消といえば、以下の記事も参考にしてください。ウンチの量が多くなるドッグフードは品質が低い!という、ネットのウワサに対するアンチテーゼで書いた記事です。
《参考記事》 犬のウンチ量は少ない方が本当に健康によい?便秘になるよりは大量の方がずっとマシ
また、ドッグフードでいえば、以下の「犬心」は便秘解消にとても効果がありました。(「もなか」の場合ですが。。。)
《参考記事》 「犬心」はダイエットにも最適なドッグフード(無料お試し有)
今見ると、このドッグフードも食物繊維をかなり意識して作られているようです。ドッグフードのラベルに「食物繊維の最適化」と書いてありました。
よかったら、試してみて下さい。